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■ ★評価別Index : ★★★★★ ★★★★ ★★★☆ ★★★ ★★☆ ★~★★ |
2007年
02月
08日
(木)
01:10 |
編集

「ダウン・バイ・ロー」 ★★★★☆
DOWN BY LAW (1986年アメリカ/西ドイツ )
監督:ジム・ジャームッシュ
脚本:ジム・ジャームッシュ
音楽:ジョン・ルーリー
キャスト:ジョン・ルーリー、ロベルト・ベニーニ、トム・ウェイツ、 ニコレッタ・ブラスキ、エレン・バーキン
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映像における美学としての恍惚を求める映画があっていいはずだ。
脱走物の映画は面白い、そこには現実には決して味わう事の出来ないわくわくさせられるスリルやアクションが存在するからだろう。「大脱走」しかり「アルカトラズからの脱出」しかり名作も多い。
この「ダウン・バイ・ロー」はスリルもアクションもない、だが名だたるどんな脱獄劇にも負けない魅力に溢れている。
前作「ストレンジャー・ザン・パラダイス」同様エピソードは黒コマの暗転で繋がれ、無駄な説明や状況描写とは無縁だが、ストーリー自体は一見かなり映画的な展開を見せる。うだつの上がらないザックとジャックが嵌められて刑務所に収監され、そこにイタリア男が加わって脱獄し逃走する。だが、実にドラマティックなクライム・ストーリーになりそうなこのモチーフも、ジャームッシュが描くとそれは人間を映し出す出会いと別れのロードムービーになるのだ。
まず素晴しいのはこの個性的な3人のキャラクターの生かし方だろう。ジョン・ルーリー、ロベルト・ベニーニ、トム・ウェイツ、何処から見てもアンバランスなトリオを主役に据え、特にベニーニは反りの合わない二人の潤滑油のような役割をしながら、この脱獄劇に奇妙な均衡をもたらしている。実際英語をろくに話せないベニーニが加わって騒々しくなってから、映画は途方も無くきらきらと輝き始め、観る者はこの脱獄劇の行方に興奮させられてしまうのだ。そういえば「ナイト・オン・ザ・プラネット」のローマ編のドタバタも酷く魅力的だったが、ジャームッシュの作品で登場するベニーニはどういうわけかいつも印象的で面白い。
最も驚かされ、そしてニヤリとさせられるのは、脱獄話なのにも関わらず脱獄シーンを物の見事に省略割愛して見せた構成だろう。「レザボア・ドッグス」でタランティーノが強盗シーンを全部省略したやり方や、最近ではクローネンバーグの「ヒストリー・オブ・バイオレンス」にも見受けられる思い切った構成は、この「ダウン・バイ・ロー」を彷彿とさせられた。余分なシーンやエピソードを一切排した、むしろ饒舌な映画に見慣れた我々を唖然とさせる程のその無駄の無さと潔さが、この映画のテーマが脱獄そのものとは全く別の所にあるということを明確に物語る、見事だ。
また映像面では相変わらず美しいショットの数々が散りばめられて、その構図や白と黒の陰影の緩急には見惚れてしまう程だ。映画のオープニングで、トム・ウェイツが歌う“Jockey full of Bourbon”に乗って、ニューオリンズの街並みがゆっくりと映し出されるのだが、その移動撮影による風景描写もまた作品の味わいの一つだろう。特にクライマックスのダンスシーンのベニーニとブラスキの至福の表情、そしてエンディングの別れ道のシーンは本当に素晴らしい。女と別れ、女と出会い、男達はまたバラバラになって其々の道へと歩き出す。似合わない服を着たザックとジャックの二人は一言も口をきかずに別れ道まで歩き、名残を惜しむかのように上着を交換して短い会話を交わす、だが握手はしないで別れていくのだ。
そうだ、人の別れはいつもこんな風にまたいつか再会する日が来るかのように思えるものだ、そしてそれが永遠の別れになるとしてもその時には解らない。
ジャームッシュ独特の会話のユーモアで綴られる脱獄囚の珍道中は、映画的なシチュエーションを借りながら、やはりこれもまた出会いと別れの偶然の妙を映し出した作品である。どことなく可笑しくて頽廃的な雰囲気は「ストレンジャー・ザン・パラダイス」と共通するものだが、それ以上に本作は愛すべき温かさをも備えている。
そして何よりエンディングは数ある映画の名ラストシーンの中でも絶対に外せない圧巻のシーンである。初めてこのエンディングを観た時は言葉を失った。映画を観直して、改めて自分の今という瞬間を重ねずにはいられない、そんな心境でもある。映画を愛する多くの人に是非この愛すべき傑作を体験して欲しいと思う。
■当ブログのジム・ジャームッシュ監督作品感想LINK
・ ストレンジャー・ザン・パラダイス ★★★★★
・ ブロークン・フラワーズ ★★★★
・ コーヒー&シガレッツ ★★★☆
・ 10ミニッツ・オールダー ★★★
・ ナイト・オン・ザ・プラネット ★★★★








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