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The Door into Summer
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 ★評価別Index : ★★★★★ ★★★★ ★★★☆ ★★★ ★★☆ ★~★★ 


「アメリカ,家族のいる風景」
2006年 12月 13日 (水) 21:44 | 編集
アメリカ、家族のいる風景 アメリカ、家族のいる風景

「アメリカ,家族のいる風景」 ★★★☆

DON'T COME KNOCKING (2005年ドイツ/アメリカ )
監督:ヴィム・ヴェンダース
原案:サム・シェパード、ヴィム・ヴェンダース
脚本:サム・シェパード
音楽:T=ボーン・バーネット
キャスト:サム・シェパード、ジェシカ・ラング、ティム・ロス、ガブリエル・マン、サラ・ポーリー、フェアルーザ・バーク、エヴァ・マリー・セイント
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パリ、テキサス」で探し続けた家族の絆が20年を経て再びスクリーンに蘇る。
ヴェンダースがアメリカへのありったけの思いを詰め込んで綴ったオマージュ、そしてLong goodbye。

 映画自体は淡白でストレートだ。落ちぶれた俳優が人生の終盤に差し掛かって初めて自分の家族や人生と向き合おうとする。
 言われているようにジャームッシュの「ブロークン・フラワーズ」とストーリーがよく似ている。ロードムービーであること、老いを感じ始めた男が己が孤独に気づき家族という血の絆を求めて旅に出るというプロット、おまけに訪ねた先にいるジェシカ・ラングまで同じだw。思うに、若い頃は自由という孤独を謳歌しそんな自分を愛して戦い続けていても、人はいつかそれに疲れ、帰る場所と共にあるべき家族を求めたくなるものなのだろう。だからこそ「ブロークン・フラワーズ」はあのジャームッシュにしてウェットな味わいがあった。しかしジャームッシュが殆んど何も解決しないまま観客に男の人生を丸投げしたのに比べれば、この「アメリカ,家族のいる風景」はとてもストレートに孤独な人生を省みて家族の絆を訴える。愚かで幼い男の身勝手さと逞しくも優しき女達の懐の深さ、そして迎える家族の複雑な思いを非常に解り易く描き出し、捻りのない率直な作品である。逆にその分だけ映画としてはジャームッシュの方がより印象的で余韻が残ったように思う。

 しかし「パリ、テキサス」を愛した人には、おそらくこの映画の数々のシーンが特別な意味を持って心に響くに違いない。あの美しい映画から20年を経て、どんな思いでヴェンダースが再びサム・シェパードと組み、愛して止まなかったアメリカの風景をカメラに収め、そしてアメリカを去ったのか。
 まずオープニングからの一連の風景に、我々はまるで西部劇でも観るかの様な懐かしさを感じずにはいられないだろう。そして同時にトラヴィスの彷徨った風景を思い出さずにはいられない。
 更には主人公ハワードが息子の放り投げたソファに座ったまま長い時間を過ごすシーンである。空を見回し辺りの風景を無言のまま眺め続ける男をカメラは静かに追い続ける。愛しい人々が住む愛しい風景、しかしそれは留まることができない場所でもある。その瞬間、ハワードの姿は「パリ、テキサス」のトラヴィスに重なり、やがてヴェンダース監督自身に重なっていくのだ。
 
 また、ロードムービーとしても映像的にも初期のヴェンダース作品を彷彿とさせる作品であることも触れておきたい。
 主人公は母親の変わらぬ優しさに出会い、恋人や息子の孤独と憤りを知り、そして娘の愛に触れる。思いが叶う当てもなかった旅で男はどれ程の糧と幸福を得たことだろうか。これはロードムービーのシンプルな魅力への回帰とも言える。
 映像面では「パリ、テキサス」同様に星条旗カラーの赤と青が実によく映える穏やかな色合いと、相変わらず絵になる完璧なショットが連続する。人の戻るべき原点を思い起こさせてくれるような映像は、郷愁漂うノスタルジックな雰囲気に包まれ温かさに溢れている。因みに映画のロケ地となったのはモンタナ州ビュートの街だそうだ。
 
 できることならばこの作品を観る前に是非「パリ、テキサス」という名作を観て欲しいと思う。ヴェンダースは「ランド・オブ・プレンティ」とこの「アメリカ,家族のいる風景」を撮って、長きに暮したアメリカを後にしてドイツに帰ったのである。単に一つの作品としてだけでなく、監督自身の思いや映画人生を投影する作品として、ヴェンダースファンにはとても感慨深い作品だろうと思う。
 正直、多くの場面で涙が出そうになってしまった、さりげなく映し込まれた星条旗をきっと忘れることはできないだろう。
   
   ◆参考資料:ヴェンダースインタビュー     


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