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-何の参考にもならない映画評-
The Door into Summer
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 ★評価別Index : ★★★★★ ★★★★ ★★★☆ ★★★ ★★☆ ★~★★ 


「悦楽共犯者」
2006年 12月 01日 (金) 00:27 | 編集
ヤン・シュヴァンクマイエル 悦楽共犯者 ヤン・シュヴァンクマイエル 悦楽共犯者

「悦楽共犯者」 ★★★★

Conspirators of Pleasure、Spiklenci slasti
(1996年チェコ=イギリス=スイス)
監督:ヤン・シュヴァンクマイエル Jan Svankmajer
脚本:ヤン・シュヴァンクマイエル
キャスト:ペトル・メイセル、ガブリエラ・ヴィルヘルモヴァー、バルボラ・フルザノヴァー
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欲望は密やかにしまい込まれるべきである。
引き出しの奥に、或いはクローゼットの扉の向こうに。


 面白い!フェティシズムとシュルレアリズムの偉大なる遭遇。めくるめく変態の世界へようこそ!w 
 チェコのアート・アニメ界の巨匠、ヤン・シュヴァンクマイエルと言えばシュールでブラックな短編が脳裏を過ぎる。
本作は彼が長きに構想を温めていた87分の長編。やめられない止まらない、男女6人の様々な性癖とフェティシズムを赤裸々に描き出す快作だ。
 
 全篇台詞の全く無い映像は、主に登場人物達の奇妙な作業を注視し続ける。登場人物の中年男女6人は皆揃って所謂“変態”、彼等のフェティシズムはざっとこんな感じである。

・ 主人公の男:エロ雑誌で作ったハリボテ鶏人形を被り、隣人の女(嫁か?)へのストレス解消癖
・ その男の隣人の女:主人公に似せた人形を鞭打つSM癖
・ 主人公が買うエロ雑誌の書店主:ニュースキャスターを見ながら自作の素敵変態マシーンでオナニー癖
・ 夫に顧みられないキャスターの女:バケツの鯉に足を吸われたい突つかれたいフェチ
・ キャスターの夫の刑事:毛皮とブラシと釘がついた自作オブジェで全身マッサージフェチ
・ 鯉の餌のパンクズを丸め、人形用の藁を捨てる郵便配達女:小さく丸めたパンを鼻と耳に死ぬほど詰め込みたいフェチ

 性癖を見事なまでに誇張して描かれた彼等は、皆それぞれに性欲や快楽の自慰マシーンを作り出して充足していることが解る。しかもそんな彼等の快楽はお互いに少しずつ絡み合って、欲望の需要と供給に関わっているという奇妙な関係にあるのだ。タイトルの悦楽共犯者とはまさにこの関係を意味するのだろう。

 そして我々は、あまりにマニアックなフェティシズムと登場人物の至福に満ちた恍惚の表情に大笑いしつつ、このデフォルメされて映し出された性癖は、本来人間が誰でも持っている欲望であることに気づかされる。ヤン・シュヴァンクマイエルは一見平凡に見える人間の裏側にある本質をグロテスクなまでに暴き出して見せるのだ。見方を変えればこれは大人の為のシュールな、そして最高のファンタジーだろう。

 だが映画のラストは妄想と現実が入り混じったブラックな着地点を見い出す。
 思うに現実社会はフェティシズムの妄想世界だけでは飽き足らず、欲望の充足をリアル世界に求めて暴走している。エスカレートする虐待や性犯罪に表象されるように、覆い隠されるべきストレスや欲望は、実際の暴力や犯罪となって現出する。結局人間の根源的な欲求は、いつリアルな快楽を求めようと走り出すかも解らない危うさと隣り合わせで、それを行動に移すか否かという理性との鬩ぎ合いに常に曝されているのだ。
自慰による充足で完結できればおそらく世の中はもっと平和に収まるのだろう。しかしこの映画が終盤で見せたものは、理性というクローゼットに隠しきれなくなった本能だ。言い換えれば欲望が膨れ上がって弾けた妄想世界の裂け目でもある。シュヴァンクマイエルの仕掛けた毒は軽妙だが酷く辛辣だ。

   ◆参考資料(Wikipediaより)
     ・ フェティシズム
     ・ シュルレアリズム
 

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