-何の参考にもならない映画評-
The Door into Summer
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 ★評価別Index : ★★★★★ ★★★★ ★★★☆ ★★★ ★★☆ ★~★★ 


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「ある子供」
2006年 11月 02日 (木) 02:13 | 編集
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ある子供 ある子供

「ある子供」 ★★★★

L'enfant、The Child (2005年ベルギー/フランス)
監督:ジャン・ピエール・ダルデンヌ / リュック・ダルデンヌ
脚本:ジャン・ピエール・ダルデンヌ / リュック・ダルデンヌ
キャスト:ジェレミー・レニエ、デボラ・フランソワ、ジェレミー・スガール、ファブリツィオ・ロンジョーネ、オリヴィエ・グルメ、ステファーヌ・ビソ、ミレーユ・バイ、アンヌ・ジェラル、ベルナール・マルベクス、レオン・ミショー
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 大人になれない子供。
 人や物を慈しむ心が未成長のままの哀しき無知を、鋭利な視点で映し出す、期待通りの秀作だ。

 「ロゼッタ」や「息子のまなざし」で高い評価を受けるダルデンヌ兄弟の最新作、作風は今までと全く同じである。凡そ映画的な演出は排除され、ハンディカメラによる手ぶれの画面と極端に少ない台詞、生活音のみで構成される息詰まる静寂に支配された独特の世界だ。しかし危なっかしくも赤ん坊をしっかりと抱き締める若い母親の表情を執拗に追い続けて始まるオープニングから、映画は観る者を釘付けにする。
 完璧なリアリズムが生み出すテンポとスリルさえ感じさせられる展開、「ある子供」はダルデンヌ兄弟の作品の集大成として人間の最も大切なものを浮彫りにして見せるのだ。

 ストーリーはと言えば非常に極端なフィクションである。生まれて10日も経たない赤ん坊を事も無げに売り払う父親ブリュノは、大人として必要な「心」を欠いた一つの類型的な若者として登場する。行き当たりばったりに金を使ってのその日暮らし、稼いだ金で買った物も大好きな恋人が生んだ赤ん坊も右から左へ売り飛ばしてしまう。根本から悪い奴ではないのだろうが、常識的な思考回路がすっぽり抜け落ちて、愛することや慈しむことの意味が何処かに置き忘れられてしまったかのように不実なのである。

 振り返ってみるとダルデンヌ兄弟はヨーロッパの底辺社会に生きる子供達にカメラを向けて様々な社会問題を描いてきた監督である。稼ぐ為に必死にもがきギリギリまで突っ張ったロゼッタ、不意に殺人を犯してしまったフランシス、そして不法労働者を搾取する自責に苦悩するイゴール。今作「ある子供」でもテーマは違えど人身売買が平然と行われ引ったくりやドラッグで金を稼ぐ低所得者層の現実が淡々と描き出されている。
 ともすれば冷酷にも見えるブリュノの感情の鈍さは、果たしてこのような閉塞した社会で生きてきたが為なのか或いは家族からのあるべき愛情を得られなかったが為なのかと、おそらく観る者は考えずにはいられないだろう。映画はそういう根本的社会問題を追及するものではないが、その中で成熟できないままいびつに歪んで大人になってしまった心と、それを産み落とした社会の有り方を見事に表象してみせる。“L'enfant”、このタイトルは人身売買の憂き目に遭おうとした赤ん坊ではなく、そんな愚かで無知な主人公に示される若者そのものなのである。

 愛情や人の心というものに鈍感で、最も大切なものまで売り飛ばしていたブリュノであるが、子供を失うショックで倒れ真剣に怒る恋人の姿に触れ、また捕まった少年への約束を果たすという二つの出来事で初めて「責任」ということの意味を知ることになる。それは子供にとっての父親であるという責任や、自分の為に捕まった少年への約束と贖罪という責任だけではない、彼自身が社会で生きていくことの重さを知ったということなのだ。言い替えれば主人公はこの時初めて自分の人生とまともに向き合ったのであろう。
 そしてそんな彼と対極にある存在が恋人のソニアであろう。子供を生み育て真っ当に生きて行こうとする彼女は、ブリュノの刹那的な生き方や無責任な心と表裏一体となって、本作の癒しとなる存在である。彼女は決して賢くはないにしてもその母性で赤ん坊のみならずブリュノまで包み込む、人間としては成熟した存在として位置付けられていると思う。

「ジミーは?」
「元気よ」
 ただただ手を握り締め慟哭する二人。ラストシーンは劇的にエンドクレジットへと暗転し沈黙する。
泣き崩れほんの少し大人になったブリュノの姿に我々観る者は幾分救われた思いがするだろう。このエンディングの収束の仕方も「ロゼッタ」等と同様で、ダルデンヌ兄弟の温かい視線を感じさせる深い余韻の残るものだ。

 ブリュノ演ずるジェレミー・レニエと、ダルデンヌ監督作品には常連のオリヴィエ・グルメが「イゴールの約束」以来再び本作で共演している。二人とも地味なルックスの俳優だがだからこそリアリティを生むのだろうと思う。特に、主人公の悪びれない幼き愚かさをジェレミー・レニエは好演している。(イケメンじゃないのがポイントなのだw
 2005年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作品。ダルデンヌ兄弟は1999年の「ロゼッタ」にひき続いて2度目のパルムドール受賞である。因みに2005年度のカンヌの審査委員長はダルデンヌ兄弟とは実に対照的な作風のエミール・クストリッツァであった。自分の映画はアヒルとかロバとかそりゃもうとんでもなくハイテンションなのになぁw

 久しぶりに観たダルデンヌ作品、面白かった。BGMさえないのにスリリングで役者の息遣いに緊張を強いられる。唐突に途切れるラストのバッサリ感も背筋に来るw。ロゼッタも良かったがこっちの今日性に★を追加した。カメラワークにしてもアングルにしても非常に独特のスタイルを貫く監督だが、張り詰めたこの空気は癖になる。
静寂のエンドロールに見入りながら「頑張れよ」と呟きたくなる、ついでに自分もしっかりしろよな、と思いつつ(゚Д゚;)


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   ・ ロゼッタ ★★★☆
   ・ 息子のまなざし ★★★☆

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