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-何の参考にもならない映画評-
The Door into Summer
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 ★評価別Index : ★★★★★ ★★★★ ★★★☆ ★★★ ★★☆ ★~★★ 


「DEAR WENDY ディア・ウェンディ」
2006年 10月 23日 (月) 05:26 | 編集
DEAR WENDY ディア・ウエンディ DEAR WENDY ディア・ウエンディ

「DEAR WENDY ディア・ウェンディ」 ★★★☆

DEAR WENDY (2005年デンマーク/フランス/ドイツ/イギリス )
監督:トマス・ヴィンターベア
脚本:ラース・フォン・トリアー
キャスト:ジェイミー・ベル、ビル・プルマン、マイケル・アンガラノ、クリス・オーウェン、アリソン・ピル、マーク・ウェバー、ダンソ・ゴードン、ノヴェラ・ネルソン、ウィリアム・フットキンス、トマス・ボー・ラーセン
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この作品で狙い撃たれたものはまさに銃社会アメリカそのもの、まるでトリアーのアメリカ三部作番外編のような作品だw。

平和を守る為に銃を身につける。不完全な自分を完全にしてくれる存在が銃なのか?しかし美しい姿の裏に秘められた本質は、平和を守るどころか有無を言わさぬ狂暴なる力でしかない。アメリカ三部作を製作中のトリアーが絡んでいるだけあって一筋縄ではいかないブラックさを湛えた青春映画である。
まず映画の中で負け犬とされた若者たちは、一見するとまさに社会的弱者の象徴であるように感じられる。そして黒人の女を送り届ける為に自らの人生を賭けて無謀な戦いを挑んでいく姿は、若者が大人達に反旗を翻して戦うレジスタンスのようにも見えるだろう。つまり映画の表側は、無軌道で純粋なる狂気を秘めた青春映画の体裁を取っているわけだ。

しかしウェンディとは一体主人公にとって何だったのか?という疑問を考えてみると、この作品のもう一つの側面が見えてくる。ウェンディは自分に自信を持つことが出来ず弱さを抱えて生きる若者の欲望を満たす物であり、或いは自分を傷つけようとする暴力への鎧でもある。まるで永遠の恋人にでも語りかけるかのように続く独白は、何故人は銃を持つのか?という根本的な意味を我々に問いかける逆説でもあるということなのだ。
そしてこの映画が仕掛けた半ば「ドッグヴィル」にも似た演劇的なシチュエーションによる寓話性によって、我々は簡単にシンプルなテーゼに辿り着く。即ちこの西部劇然とした奇妙な戦いの顛末とは、「銃」とは「武器」「武装」という「暴力性」の象徴であり、主人公ディックを中心とした様々な弱さを持つ若者グループは云わば多様な人種を抱えているアメリカ社会を表象するものなのではないかということである。
暴力による暴力の抑止という皮肉と言えばクローネンバーグ監督の「ヒストリー・オブ・バイオレンス」が記憶に新しいが、平和を守る為に核を持ち続ける現代国家にも一撃を喰らわせる、トリアーというフィルターを通した社会派作品でもあると思う。

と、まぁここまでは普通に想像し得る部分であまり書いていても面白くない(爆。
個人的に興味深かったのは、クライマックスの無謀過ぎてアホな銃撃戦とか、白人グループの若者達の輪を乱すものとして黒人少年を放り込んでみたりするところ。保安官vsお尋ね者みたいな安っぽいあの設定は西部劇的アメリカ映画を揶揄しているようにも思えるし、ダンディーズの破壊者をやっぱり黒人にしてしまう辺りも人種差別社会の現実をトリアーがニヤニヤして仕組んでいる気がしてならないw。更にこの映画はディックからウェンディへのラブレターだったりもするわけだ。主人公の名前がDickで(・∀・)b、ウェンディは男を魅入る魔性の女、銃はフロイトの心理学では男性器そのもの、と間違いなく性的なニュアンスを含んだ銃フェチ描写も、銃が人を惹き付ける本質の一端を表わすのに大いに貢献している。青春映画としてのナイーブさや危うさを併せ持ちながら、この作品の本質はアメリカへの完膚なきまでの皮肉であり告発であると言えよう。

監督は、脚本のラース・フォン・トリアーと一緒に“ドグマ95”を結成したデンマーク出身のトマス・ヴィンターベア。初作品「セレブレーション」でカンヌの審査員賞を受賞するなど注目の監督である。元「リトル・ダンサー」(これまた設定は炭鉱だったなw)のジェイミー・ベルや「ロスト・ハイウェイ」のビル・プルマンをキャスティングし、音楽はゾンビーズ。レトロな雰囲気を漂わせた演劇風のコミカルな演出が心憎い。ゾンビーズとはビートルズを中心とする、60年代半ばにおけるブリティッシュ・インベイジョンの一翼を担ったグループだそうだ(公式サイトより)。「ふたりのシーズン」「シーズ・ノット・ゼア」等が挿入歌として使われているがなかなか印象的で良かったと思う。

因みにアメリカ各紙の批評は低いようだがw( ⇒ metacritic.comを見る)、社会の縮図を描いた寓話として深読みして遊ぶと結構面白い。トリアー好きなら見逃せない作品だろう。
   
   ◆参考資料
     ・ ラース・フォン・トリアー
     ・ ドグマ95
   ◆このブログのトリアー作品の記事
     ・ ドッグヴィル ★★★
     ・ 奇跡の海 ★★★☆
   

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