-何の参考にもならない映画評-
The Door into Summer
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「ゆれる」
2006年 10月 01日 (日) 00:59 | 編集
ゆれる オリジナルサウンドトラック ゆれる オリジナルサウンドトラック

「ゆれる」 ★★★★

(2006年日本)
監督:西川美和
企画:是枝裕和、安田匡裕
原案:西川美和
脚本:西川美和
キャスト:オダギリジョー、香川照之、伊武雅刀、新井浩文、真木よう子、木村祐一、ピエール瀧、田口トモロヲ、蟹江敬三
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人間の複雑なる心の襞を丁寧に描き撮り、肉親の絆と愛憎を映し出した秀作。
香川照之の圧倒的な演技力が見事。


「ゆれる」ものは不安定な吊橋だけではなく、登場人物の心の揺れをも表す。殺人罪に問われた兄、稔(香川照之)の心が揺れ、兄を助ける証言をするはずだった弟(猛=オダギリジョー)も稔の変化に途惑い揺れる、二人の間で女(智恵子)もまた揺れていた。揺れる吊橋が映画の支柱のモチーフに据えられて、人生の分岐点としての象徴的な役割を果たすのだ。
前半の展開はかなり安っぽいTVの2時間サスペンス調だが、一人の女を巡って露呈される兄弟の確執は信頼から嫉妬、疑念、憎悪、裏切りへと徐々に形を変え、人間心理を奥深く追求した作品に仕上がっている。「ハリウッド映画は『エンターテインメントとしての映画』 という流行を作ってしまった」とクストリッツァが何かのインタビューで語っていたが、少なくともこの作品は人の心の機微というものを描き出すことに腐心して観る者の胸の奥底をかき乱してくれる。観る者の心もまた映画に揺さぶられるのだ。
血を分けた兄弟という存在故に生じる軋轢と絆、観て損はない出色な作品だと思う。

以下完全ネタバレ
最も重要なモチーフである吊橋についてまず考えておきたい。
吊橋を渡るという行為はこの作品の中では「自分の殻を破って人生を生きる」という、生き方を語る一つのメタファーの役割を果たしている。それ故に猛はいとも簡単に吊橋を渡って自由奔放に我が道を進み、田舎で父親の事業を継ぐ孝行息子である稔には決して渡ることができない。そんな保守的な生き方を選択した稔から離れ、吊橋を渡って猛の側の世界に行こうとしたのが智恵子だ。智恵子への拘泥は、兄弟という絆の下にずっと封印されてきた、もしかしたら一生暴かれることがなかったかもしれない思いをあの場所で解き放ってしまったのだ。
言い換えれば吊橋はこの作品の分岐点として、兄弟だった二人を個の人間として剥き出しにしていくきっかけとなるのである。

そして本作で注目すべきは、主人公である猛の心理は勿論なのだが、それ以上に兄稔の心の動きであろう。裁判が始まってから猛を翻弄し続ける稔の心理状態について考えてみると、彼の行動には幾つかの謎が浮かび上がる。
まず猛さえ言わなければ誰も知らない吊橋での出来事について、敢えて彼は裁判で供述する道を選ぶ。事故を立証して無実を勝ち取りたいなら智恵子にしてしまった行為を明らかにする必要はないはずだ。それでもこれは自責の念や良心の呵責からくるものだとして説明はつくが、更に稔は不可解な行動を取るのである。人徳者だったはずの稔はその表情を豹変させ、猛が見た事もないような狡猾さや残酷さの片鱗を見せ始めるのだ、あたかも途惑う猛に「兄というペルソナの下に隠された本当の自分」を見せつけるかのように。
結局稔は事故を立証する為に最大の決め手になる弟の証言の前日に“弟を信頼していない”と告げ、自分に不利な証言を引き出してしまうのだ。最後の最後まで智恵子を繋ぎ止めようとした深い腕の傷跡を無罪の証拠として提示することもなく。

殺人だったのか、事故だったのか。
真相のヒントは事件の7年後に用意されているが、その瞬間の真実は映画の中でははっきりとは語られない。それが稔と猛の揺れ動く心を表象し、この作品の命題となっているからであろう。「ファイナル・カット」でも記憶の持つ曖昧さがテーマになっていたが、この作品も人間の主観的記憶というものの流動的な不確かさが取り上げられているのは興味深い。
自分はおそらく稔の証言が事実に近いのではないかと思う。確かに智恵子に冷たくあしらわれて彼は激昂し、殺意に近い憎悪を持って彼女を突き飛ばしただろう。その視線の先には全てを奪っていく弟の姿があったはずだ。しかし彼は唯一渡したくなかった智恵子を助けようと手を伸ばしたのではなかったのか。それなのに何故自らを罪に貶めるような言動に及んだのか?
拘置所で稔が見せた思いもよらない表情は、弟への嫉妬や羨望、諦念と自己欺瞞に満ち、半ば小さな田舎町のガソリンスタンドで「いい人」の顔で一生を終える自分自身というものをどこかで蔑み憎悪していたようにさえ思えるのだ。
長男としての実直な生き方を余儀なくされ、吊橋から落ちた智恵子よりも兄を庇うことに必死になった弟にも、誠実な兄としていつまでも故郷に存在し続けることを無意識の内に望まれている。周囲から背負わされたあるべき虚像に苛まれながら、彼が本当に欲しかったものは何だろう?
人間とは実に複雑で不可思議な生き物だ。兄弟であるが故に互いの本心を覆い隠したまま踏み込まず、その兄弟の人間としての一面を見失って、いつか一番近いようで遠い存在になってしまうことだってあるのかもしれない。この作品の最も痛切な点は、深い絆が理解とイコールではないということにあるように思う。

結局猛は兄への信頼を失い、故郷に繋がるたった一つの架け橋であった兄を証言台で見捨てることを選択する。この時点では猛は「稔が智恵子を突き落とした」という主観的記憶に支配されているわけだ。そして重要なことは翻って猛にこの裏切りとも言える選択をさせたのは他ならぬ稔なのではないかということだ。稔を最初から疑っていた猛の証言に救われたくはないという気持ちも当然あっただろうし、何食わぬ顔で以前の場所に戻って鬱屈して暮らすことに耐えられなかったのかもしれない。或いは兄弟の愛憎に巻き込まれて死んだ智恵子への罪を贖い、弟の今現在の稔への正直な気持ちを受け止めて自分の虚像を破壊したい思いもあったかもしれない。勿論理由は想像の域だが、いずれにしても猛に反証させるように仕向けたのは稔自身なのである。渡りたくてもどうしても渡れなかった吊橋、稔は罪をその身に引き受けることによって、あの吊橋を渡ろうとしたのではないか。
幼い頃のように「兄ちゃん」と呼びかける猛に、ラストカットの稔は瞬間何の衒いもなく柔らかく微笑みかける。カメラは稔の笑顔を映し出し、暗転。
あの瞬間二人は幼い頃に繋がれた手のように切れかけた絆をまた取り戻したのであろうか。兄弟とは最も心を許せる最も近いライバルでもある、自分の鏡のようなその存在は他人には決して解らない家族として暮したかけがえのない記憶を共有する。彼はバスに乗ってしまうかもしれないが、最後の笑顔はやはり兄弟の愛憎含めた深い絆を感じさせる表情に見えた。

但し、このように深い人間ドラマが構築されてはいるものの、幾つかの附に落ちないエピソード部分が若干気になったことも事実。
まず稔の腕に深く残った傷跡。これは映画の終盤で猛が観たフィルムとリンクしてその理由が明らかにされる仕掛けになっているが、やはり最初に稔を尋問した刑事や弁護士誰一人としてあんな大きな傷に気づかないというのが少し不自然に感じる。観客にあからさまに見せる以上、伏線としての描写にはもうちょっと工夫が欲しい。
それと事件目撃直後の猛の行動は個人的にはやはり不可解。どう考えても普通知り合い(しかもSEXした元カノ)が吊橋から落ちたらまずその安否を確認しに行くのではないか?ほんの少しでもいいからそういう1シーンを加えてくれないと、例え兄を庇う為だとしても、このドラマに重要な影響を及ぼす人物である智恵子と猛との関係自体が希薄なものになってしまうように思う。まぁ元々智恵子に関しての描写はかなり少ないわけだが・・・。これだけのドラマなので完成度という意味から今一歩詰めて貰いたかった。

オダギリジョーをはじめとした役者が皆素晴らしい。木村祐一、ピエール瀧、田口トモロヲといった面々を硬派な役柄に据えて意外性のあるキャスティングが面白かった。特に香川照之は次にどんな表情をするのか期待させてくれる数少ない役者だ、非常に繊細なまさに「ゆれる」心の動きを見事に体現し切っている。瞳の動き、眉の表情、声、萎れた背中、その僅かな変化で稔という男が抱く複雑な心理状態が我々に伝わるのだ、素晴らしく上手い俳優だと思う。
監督は「蛇イチゴ」の新進気鋭の女流監督西川美和、企画には「誰も知らない」の是枝裕和監督が参加している。ミステリー・サスペンスのプロットだが見応えのある人間ドラマと言った方がいいだろう。「ゆれる」ものや「吊橋」などのメタファーとしての意味づけや、効果音の使い方など細部の演出もはっとさせられるものが多かった。
前述した解釈は自分の勝手な受け取り方で、様々な意見が出てくる作品だと思う。この映画をどう受け取るか、観た方のご意見をTBやコメントで頂けるとありがたいです。
短くまとめる時間もないので文章いきなり打ってうpしてみる暴挙。イミフだったらすみません。


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■西川美和監督作品
  蛇イチゴ

■是枝裕和監督作品
誰も知らないワンダフルライフDISTANCE(ディスタンス)
誰も知らないワンダフルライフDISTANCE


■「ゆれる」オリジナルサウンドトラック
ゆれる オリジナルサウンドトラック ゆれる オリジナルサウンドトラック

■西川美和著「ゆれる」
ゆれる ゆれる
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