■ Title Index : all ア カ サ タ ナ ハ マ ヤ ラ ワ A-Z・数字 監督別 |
■ ★評価別Index : ★★★★★ ★★★★ ★★★☆ ★★★ ★★☆ ★~★★ |
2006年
06月
08日
(木)
21:32 |
編集

「ニンゲン合格」 ★★★★
(1999年日本)
監督:黒沢清
脚本:黒沢清
キャスト:西島秀俊、役所広司、菅田俊、りりィ、麻生久美子、哀川翔、大杉漣、洞口依子、鈴木ヒロミツ、豊原功補
⇒ ニンゲン合格@映画生活
僕等はちゃんと生きられているのだろうか?
僕等は何処を目指して、誰と解り合おうとしているのだろう?
これもまた「アカルイミライ」「回路」に繋がる自分探しの旅だ。
他愛のない会話をして泣いたり笑ったりする日々であっても、そんな歳月が積み重ねられることで人は自分のアイデンティティーを確立し、他者と生きることを学ぶのだ。だがその日々が10年間の昏睡によって奪われてしまったならば、そしてそれが14歳からの成長期であったならば。
だが映画は主人公である豊を最初から孤独な「個」として突き放す。
まずプロローグで、外見が24歳であっても心は14歳のままの豊の突然の覚醒を手放しで喜ぶ者を一人も登場させない。離散した肉親は勿論加害者にも疎まれ、唯一24歳の人間として彼を受け止めるのは他人の藤森だけだ。かといってそれを主人公が嘆き悲しむわけでもなく、まるでこの異様な状況が当然であるかのように淡々と客観視される。
また、中盤ではテーマと見紛う家族の再生と復活を感じさせる展開がある。例えば迷い込んだ馬をきっかけにして豊が懸命にポニー牧場の再建に奔走するエピソードや、母親と妹との束の間の家族の団欒の再現がそれだ。父親の死への不安という感情を通して、ほんの一瞬10年前の家族の姿が回帰させられるが、生還というニュースは再び彼等を現実に引き戻す。
しかし黒沢清が描きたかったものはこんな似非家族ごっこによる癒しではないだろう。離散した家族、無くなったポニー牧場、成長した友人達、これ等の変わり果てた物を幾ら拾い集めても、それは14歳の彼の受け皿でしかないのである。だがこの10年前の再生という行為は、豊自身がもう二度と過去の幸福が戻らない事を悟り、24歳の本当の彼自身と向き合う為のステップとしての必然性があったのだ。豊の「心の覚醒」は室田という加害者との再会によってもたらされるが、10年前の事件から離れられずに苦悩する室田は云わば豊の鏡のような存在として描かれていることを注目すべきだろう。過去に執着する自分から覚醒し、現実を生きなければ、という思いがポニー牧場の破壊に表象されているのである。
そして作品を通して興味深い構図は、「集まってはバラバラになる」「作り上げたものを破壊する」というリピートだ。ポニー牧場も家族もとても脆い。しかしその脆弱な存在がいつまでも朽ち果てることなく人の記憶に残り続ける。
家族って何だ?思い出って何だ?自分は何者だ?
そんな問いかけに主人公が見い出した唯一の出口となる言葉が、「俺は何処からか来た、そして何処かへ行く」だったのではないか。
人は人と出会って別れることを繰り返して生きる。現在のありのままの豊を受け止める他者は、肉親でも親しい友人でもない藤森とNYで歌手を目指す女だったのかもしれない。
この作品はリアル浦島太郎の途惑いを描きつつ、人の形成する社会的集合体の流動性を映し出し、しかしそんな脆くて移ろいやすい「他」という存在だけが「自分」という自己存在を証明するということを明快に語ってみせたものなのではないか。
皮肉なことに、豊が願ったほんの一瞬でも家族全員が元のように集まる瞬間は、彼自身の葬式の場でやってくる。残酷に見えるエンディングだが、豊にとっては「死んでいればよかった」人生への訣別であり、最後に交わす藤森の言葉が10年の喪失感を埋めたのだと思う。
「俺存在した?ちゃんと存在した?」
「ああ、お前は確実に存在した」
「アカルイミライ」「回路」へ、この問いかけは続いていく、自分の居場所と存在意義を探して。
西島秀俊が現役14歳の幼稚さや物分りの悪さ、ピュアな部分を身のこなしから表情まで非常にリアルに演じている。臆病だが単純で熱くなりやすい、10年の眠りという事の重大さを把握できずにもがく半ば幽霊のような存在を見事に表現しているのが印象的だ。
個人的には非常に面白い作品だった、本作以降の黒沢清作品群に比較するとテーマもかなり解りやすいかな、「アカルイミライ」や「回路」が好きなら必見だろう。・・・というかこれ結構前に書いた記事じゃないか、新作感想も全く書いてないままワールドカップ開幕ですよw








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