-何の参考にもならない映画評-
The Door into Summer
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「いつか読書する日」
2006年 05月 17日 (水) 02:26 | 編集
いつか読書する日 いつか読書する日

「いつか読書する日」 ★★★★

(2004年日本)
監督:緒方明
脚本:青木研次
キャスト:田中裕子、岸部一徳、仁科亜季子、渡辺美佐子、上田耕一、香川照之、杉本哲太、鈴木砂羽、左右田一平、神津はづき
   ⇒ 公式サイト
   ⇒ いつか読書する日@映画生活

30年以上その思いを胸に秘めたまま互いの人生を生きてきた男女のラブストーリー、やっと二人の心が解き放たれたその次の瞬間、男は永遠に女の「人生」という一冊の本の中にしまい込まれるのだ。

秘め事は牛乳を届けるという行為で繋がり続ける。
小さな町で顔を合わせて暮らす者達には、否応無しに見なくてもいいものまで見ることもあるのだろう。逆に近くにいるが為に大切なものを伝えられずに無為に日々を過ごす、そんなこともあるのではないか。

この作品で最も印象的な台詞の一つが、「ずるい」という言葉だ。男の妻容子に後を託されて思わず美奈子は「ずるい」と漏らす。女二人のもつれ合う感情の複雑さ、それがずるいという言葉に集約され、我々は彼女達が抱える一筋縄ではいかぬ様々な思いに行き当たることになるのだ。
もしも容子が自分亡き後美奈子と夫の幸福な人生を真に願うのであれば、美奈子を呼び出し手紙を残すという行為が必要であったのかどうか。先立つ容子には、秘めた思いを隠し続けてきた二人に裏切られたような思いがあったはずだ、だからこそ容子が総てを知っていることを敢えて提示し二人の後の人生を云わば彼女の手の内に収めようとしたようにも思える。
対して美奈子はその妻の憐情或いは思い遣りとも取れる言葉の中に、男に対する妻という立場の圧倒的な優位性や辛辣な奸知を感じたとしてもおかしくはない。或いは長い時間をかけて守ってきたものを見破られ露呈されたことへの憤り、そして心の中でずっと容子という女に感じてきた背信に自分自身のずるさも同時に感じたのではないか。

そして、男である。
抱いてきた恋心を隠して、妻に対しては良き夫を演じて生きる、その一方では牛乳配達を通じて美奈子との精神的な関係を続ける男。
冒険のない平凡な人生を選ぶことで二人の女の心の行き場―出口―を閉じてしまった男は、責任の重さも罪深さもよく解っていたはずだ。しかし感情のままに生を謳歌することすらなく50を数えた男が向き合う現実は、これからの長い人生に妻も子供もいないという老いの事実でしかない。美奈子と積年の思いを遂げた彼は、自らには得られなかった子供を救い出して至福の笑顔で最期の時を迎えたのだろうか。だがあまりにも呆気なく訪れた別れは滑稽な皮肉となって我々の中に残るのだ、人のずるさも哀しさも包含した日常の風景と共に。

ラストシーンは女が事も無げに言う台詞「本でも読みます」で収束される。
観る者は作品の題名の意味をここで理解させられ、半ば慄然とする。
膨大な本―おそらくは疲れ切って眠る彼女にはその蔵書の半ばは読まれていない―に囲まれて歳月を送ってきた女は、これからたった一人で読書するのだ。彼女にとって本を読むということは自分を見つめることであり、自身の人生を生き直すことにも繋がるのだろう。家庭を持つことはなかったが街と関り続け、彼女なりの生き甲斐を持って生きてきた一人の女の過去との訣別と人生の再生。男との長い恋物語とその終焉も彼女がこれから紐解く人生の1ページとして刻まれていくのだ。

独立少年合唱団」の緒方明監督の作品だが、平凡で不器用にしか生きられない男女の心の機微を実に繊細に丹念に描き出し、小説を読んでいるようなそんな気分にさせられた。
特に長崎の細くて長い急な坂道、牛乳瓶の触れ合う音、そして絶妙な池辺晋一郎の音楽が相俟って、狭い街で日常を生きる人々の醸し出すリズムが見事なまでに映し出されている点は秀逸。痴呆老人や児童虐待、介護などの現代社会の生々しい問題にも触れながらオーソドックスな日本映画の良さが脈々と受け継がれている作品であると思う。
田中裕子という女優を実はよく知らなかったのだが、美奈子という女の微妙な心の揺れを表現し尽くし非常に上手い。
人の心の不可思議さが深い澱みとなって観る者の胸を掻き乱す、実に秀作である。

ずっと思ってきたこと、したい。
というか、さっさとやっとけよ(本音


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■緒方明監督作品「独立少年合唱団
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