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-何の参考にもならない映画評-
The Door into Summer
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 ★評価別Index : ★★★★★ ★★★★ ★★★☆ ★★★ ★★☆ ★~★★ 


「セントラル・ステーション」 
2006年 05月 14日 (日) 17:11 | 編集
セントラル・ステーション セントラル・ステーション

「セントラル・ステーション」 ★★★★

CENTRAL DO BRASIL、CENTRAL STATION (1998年ブラジル)
監督:ウォルター・サレス
脚本:ホアオ・エマヌエル・カルネイロ、マルコス・ベルンステイン
キャスト:フェルナンダ・モンテネグロ、マリリア・ペーラ、ヴィニシウス・デ・オリヴェイラ、ソイア・ライラ、オトン・バストス、オタヴィオ・アウグスト
   ⇒ セントラル・ステーション@映画生活

ブラジルという国が孕む暗部と共に人間性の回復というテーマを描き出したロードムービー、シビアな視点がストレートに心を打つ映画だ。

代筆業を営む初老の女ドーラが託された手紙、それが縁で知り合った少年ジョズエを父親の元へ送り届けるというストーリーである。
この作品も、まずブラジルという国が向き合う苛酷な現実の一端に驚かされる。「バス174」でストリートチルドレンの実態や犯罪者への不当な扱い、複雑な警察事情等の諸問題が明らかにされていたが、本作でも然りだ。識字率が低く「代筆業」が公然と成り立ってしまう、或いは孤児が臓器売買のターゲットになったり些細な盗みでも簡単に殺されかねない、そんなブラジルの社会的弱者の苦悩がここでもまた淡々と描き出されているのである。

但し映画は、そのような現実を背景に見知らぬ少年の苦境をドーラが助けるというハートフルドラマだけに終わるものではない。
このロードムービーは、少年の父親捜しの旅であると同時にドーラという女性の心の旅でもある。作品は「グロリア」的な展開を見せるもののそのテーマの帰結は異なる。
彼女は他人の手紙を代筆してもそれを決して投函しない人間として登場する。それは人と人との心を繋ぐべき手紙を、代筆する人間が少しも信じていないという云わば偽善の象徴だ。少年の母親の死を目撃してもTV代金と引換えに少年を手放したり、途中で少年を他人に託してみたり、果ては万引きまでしてしまう。彼女は少しも聖女ではなく、良心の呵責というものを感じつつも打算的なエゴイズムに支配された半ば人間不信の一人の女性として描かれているのである。
そんなドーラとの対照は、彼女に愛する者への思いを吐露し代筆を依頼する人々の純粋な瞳の輝きであり、或いは彼女の嘘や本質を見逃さないジョズエの無垢な鋭敏さであろう。ドーラの抱えていた欺瞞や偽善は、この旅の道中ジョズエという鏡に映し出されることによって静かに、しかし確かな変化を遂げていくのである。

そして本作は手紙に始まり手紙に終わる作品でもあり、手紙にまつわるエピソードが最も重要なモチーフとなっている。届く事が叶うかどうか解らない手紙を書く、それは一つの告白であり懺悔にも似た行為だ。この作品における手紙を託す人々の述懐とは、その行為自体に自分自身への癒しと救済の意味も込められているように映る。
と同時に少年の父親の家に並べられた二通の手紙が語るように、それは何よりも雄弁に人の思いと真実を告げるものだ。
いつしかひねくれて依怙地になっていた老女が最後に少年に宛てて書く手紙もまた同様の意味を持つ。投函されることがないかもしれない手紙の中で彼女は他人の記憶から忘れ去られることを悲しみ、父親と過ごした暖かい記憶を思い出す。セントラル・ステーションでの二人の出会いは偶然がもたらした運命の交錯だ。だが、殺伐とした現代社会においてともすれば見失われがちな人間性というテーマはこの作品の普遍的な魅力となってシンプルに感動をもたらしてくれる。

最後になるが、この作品の最も印象的でエネルギッシュなシーンはキリスト教の祝祭の風景であった。少年を見失い彷徨うドーラの目に映るキリスト像や、彼らが記念撮影した写真に映るそれは決して偶然のショットではないだろう。作品全体を見渡した時に、昔は伝道師であったというトラック運転手との出会いや、手紙を託す行為に「告白」というキリスト教的なイメージが重なって見えること、そして最終的には少年ジョズエがドーラの心を見通し彼女を救いに導く存在として描かれていることを考慮すれば、宗教的な要素を抜きにしてはこの作品を語れないのではないだろうか。この視点から鑑みれば、ドーラの旅は神との邂逅を意味するものであったのかもしれない。
因みにブラジルは8割がカソリック教徒であるらしい。

監督は「モーターサイクル・ダイアリーズ」「ビハインド・ザ・サン」のウォルター・サレス。美化されることなく生々しい人間の心の襞が描き出され、良質のロードムービーとして昇華されている、いい作品でした。
1998年ベルリン国際映画祭金熊賞及び女優賞受賞、ゴールデン・グローブ外国映画賞受賞作品。


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