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-何の参考にもならない映画評-
The Door into Summer
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 ★評価別Index : ★★★★★ ★★★★ ★★★☆ ★★★ ★★☆ ★~★★ 


「ブロークン・フラワーズ」
2006年 05月 06日 (土) 20:31 | 編集
 映画「ブロークン・フラワーズ」オリジナル・サウンドトラック

「ブロークン・フラワーズ」 ★★★★

BROKEN FLOWERS (2005年アメリカ)
監督:ジム・ジャームッシュ
脚本:ジム・ジャームッシュ
キャスト:ビル・マーレイ、ジェフリー・ライト、シャロン・ストーン、フランセス・コンロイ、ジェシカ・ラング、ティルダ・スウィントン、ジュリー・デルピー、クロエ・セヴィニー、アレクシス・ジーナ、マーク・ウェバー
   ⇒ IMDbのTrailerを観る
   ⇒ ブロークン・フラワーズ@映画生活
   ⇒ "There is an end"を試聴する

過去はもう終わった、大切なのは現在。そう主人公に言わせておきながらやっぱり早々甘くない、人生もジャームッシュもw

ジャームッシュと言えば「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(1984)という青春映画に「ダウン・バイ・ロー」(1986)がその作風を決定付けたものではないだろうか。ちょっと頽廃的でクールなリズム、よく言われるところの"オフビートな雰囲気"が詰め込まれたこの2作に加え「ナイト・オン・ザ・プラネット」(1991)は自分もとても好きな作品である。
独特の沈黙が奏でる空虚さ、寂寥、その中に漂うペーソスと軽妙な笑い。そして感傷を遮るフェードアウトと切り返しをしないカメラ。はっきりした起承転結のあるストーリーでもないし、感情を抑揚させて観る映画でもない。出会ってすれ違ってまた別れる、そんな何気ない出来事の連続とそっけなさの中に抱き締めたくなるような愛しさを感じさせられてしまうのもこれまたジャームッシュの作風の魅力だ。だから観る側が彼の作家性を認めることがまず前提になるだろうし、好き嫌いが分かれる監督と言われればそれは間違っていないだろう。

そして「ブロークン・フラワーズ」である。
思い出に浸ることだけでは前には進めない、過去を振り返る旅は現在の自分自身の人生を考え直すことでもある。だけどエンディングはやはりジャームッシュそのものだった。
一たび息子がいるかもしれないと考え始めた瞬間から、年恰好の似ている若者が本当に存在するのかどうかさえ怪しい自分の息子に思えてきて気が気でなくなってしまう。この主人公は自身の寂しさに気がついてしまったのだ。ハリウッドの様式に従えば息子との感動的な出会いでも演出してクライマックスを盛り上げるのが常だろう、だがそれを選択しないのがこの監督である。
枯れた花にも希望を、と主人公に「現在」を語らせてはみたものの、結局息子の行方も手紙の差出人も最後まで解らない。ラストシーンは覆い被さる過去にしっぺ返しを喰らった主人公の孤独や、人生の岐路を前にしたどうしようもない困惑を表象して見せるかのようだ。
そう簡単に事は起こるわけがないという半ば諦念さえ漂う日常的な結末。何も起こらないけれど何か起こるかもしれない途方もない世界に続く広がりを感じさせながらも、この帰結は徹底的にシュールでシニカルだ。

自分の存在がどれだけ孤独で、人生の生き甲斐というものに縁がないのか、そして自分がどんなに年取ってしまったか。
認めたくない現実が朽ち果てる花のように目の前に広がっていく、そんなウェットな切なさを乾いたタッチで一瞬垣間見せてくれる、そう、ドンの人生もジャームッシュも何だか酷くほろ苦いのだ。

4人の恋人を演じる女優陣がそれぞれ全く異なる個性を演じて、歳月を経て色褪せたアルバムのように人生の機微を映し出して見せる。ビル・マーレイはショボくれて困惑するドン・ファンを存在感たっぷりに表現し、いつもながら茶目っ気のある飄々とした表情が魅力的だ。どんどん悪くなる再会の状況といい、エチオピアジャズという何とも腑抜けにさせられる音楽といい、半笑い状態で脱力させられてしまったw。

2005年カンヌ映画祭審査員特別大賞(グランプリ)受賞作品。時を同じくして製作公開された、ジャームッシュに所縁の深いヴェンダースの「アメリカ,家族のいる風景」は扱うテーマが本作とよく似ている。関わりの深い二人の監督が同じ「人生と家族」に拘って映画を作った、それも何とも興味深いところである。

おそらくもう少し年齢を経てからこの作品を観たら身に詰まされてしまったりするのかもしれない。
自分はこの作品を観た後には若干ウェットな後味に前述したようなジャームッシュの作品群ほどの魅力を感じられないとさえ思った、少なくとも観た直後は。
しかし時が経つ程に、ドンや恋人たちの佇まい、ピンク色の記憶、そして沈黙が作り出す1シーン1シーンの強烈な印象がフラッシュバックして頭から離れようとしないのである、映画の力とはこういうものかと改めて思わずにいられなかったこともまた事実である。
エンドロールの"There Is An End"(by The Greenhornes)という曲をもうしばらくは忘れられそうにない。

【追記】
連休中合宿や何やでレス等遅れてしまいました、すみません。(;´Д`)
本作だが、自分はジャームッシュ監督の作風が好きだし、彼のスタイルを久々にスクリーンで観られたことが嬉しかった。ジャームッシュは殆んどの作品をDVDでしか観たことがないからねw
個人的には、この監督の映画が持つ独自性はどんな刺激的なストーリーや映像にも勝る美学に近い個性だと思っている。



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     Amazon.comにて全曲一部試聴可
     "There Is An End"は必聴w。

■ジム・ジャームッシュ監督作品
ナイト・オン・ザ・プラネット ナイト・オン・ザ・プラネット

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