fc2ブログ
-何の参考にもならない映画評-
The Door into Summer
 Title Index : all           A-Z・数字 監督別 

 ★評価別Index : ★★★★★ ★★★★ ★★★☆ ★★★ ★★☆ ★~★★ 


「ロックンロールミシン」
2006年 01月 11日 (水) 03:06 | 編集
ロックンロールミシン ロックンロールミシン

「ロックンロールミシン」 ★★★☆

(2002年日本)
監督:行定勲
原作:鈴木 清剛「ロックンロールミシン
キャスト:池内博之、りょう、加瀬亮、水橋研二、粟田麗、川合千春、永田めぐみ、津田寛治、戸田昌弘、つぐみ、三輪明日美、松重豊、SUGIZO、宮藤官九郎
   ⇒ 情報サイト
   ⇒ ロックンロールミシン@映画生活

その世界が自分の居場所ではないと解っていてもほんの少しだけその輪のなかにいたい、そんな瞬間。

誰でも抱いたことのあるような憧れ、羨望、疎外感と、理想と現実とのギャップを鮮やかに描き出して、青春の夢と挫折を我々に問いかける、そんな作品である。
映画の興味深い点は、誰の視点で描かれているかという部分だろうと思う。池内博之演じるデザイナーはこの作品のモチーフにとって最も重要な役割であるにも関らず、加瀬亮演じるうだつのあがらない賢司という男の視点がこの作品の目線なのだ。かけ離れた遠い世界の友達の背中が眩しくて、ミシンの音さえも愛しかった、そんな賢司から見た思いがとても丁寧に映し出されているのである。

最終的に作品は賢司と凌一という其々の立場からの二つの選択肢を描き出す。
一つはクリエイティブな仕事と縁の無い世界に生きる人間にとって、夢は夢であって自分の進むべき道ではないと知っていく或いは現実との折合いをつけていく賢司の選択。
そしてもう一つは、学生時代のような感覚を引き摺って半ば理想だけで走っていた人間がリセットしてもう一度夢を叶える為に真剣に走り出す、凌一の選択。これは馴れ合いになった仲間との関係を一度ゼロに戻して再出発するということでもあろう。

結局賢司は最後まで「ストロボ・ラッシュ」のメンバーには成り切れず元の居場所に戻っていく。思えば彼はデザインや裁断、縫製という主らる仕事では蚊帳の外に居続け、椿という女とも結局深い関係には到らない。新しい世界でのこうした超えられないハードルは、「ストロボ・ラッシュ」の服を最後まで切り刻むことができなかったという事実によって念押しされることとなる。
言い換えれば賢司がその輪の外側の住人であることを彼自身、そして我々観る者も改めて確認させられるのだ。彼にとっての「ストロボ・ラッシュ」は生き方に半ば迷いかけた男の人生の踊り場のような場所だったのだろうか。

この映画を観ながら「あの頃ペニーレインと」という作品を思い出した。モチーフは異なるが、輪の中心になることは叶わず外側で揺らぐグルービーやライターの思いに賢司と共通するものを感じたからかもしれない。しかし本作は輪の本体が瓦解するという終焉によって甘い夢の終わりを告げられる。

自分の才能への抵抗、自信の喪失、苦悩、挫折、そんなものの真っ只中にいる人間にはとても痛みが残る作品だと思う。誰しも今の自分の居場所に満足できずに違う世界に飛び込んでみたいと思う気持ちはある。特にそれが仕事であるなら、自分の夢を仕事に生かせて或いは陳腐な表現かもしれないが趣味が実益を兼ねることができるなら、そんな幸福なことはない、と思うだろうから。

だが、エンディングで凌一はミシンをかけ続ける、羽根のタトゥーを背にしたまま。
そう、夢はまだ何一つ終わってはいないのだ。
賢司にとっても椿にとってもそれは同じなのだろうと思う。
あたかも、遊びの時間は終わったのだ、そしてこれから総て始まる、とでも告げるかのような再生への鼓動を感じさせるエンドロール、これは実に秀逸である。

難を言えば完全に賢司の一人称で語る展開でもよかったのではないかということだ。凌一という男の人間像を殆ど語らないのであれば、主人公として凌一を置くことによって観る側の視点も曖昧にならざるを得ない。加瀬亮の独白で進むくらいの話の方が多分すっきりすると思うのだが。
また、残念なのは音楽の使い方である。折角リズミカルにミシンをかけるのだからもっと効果的に音楽を入れて欲しかった、ま、キャメロン・クロウ程やれとは言わないけど一応"ロックンロール"ミシンなわけだしw

因みに「あの頃ペニーレインと」はオスカーの脚本賞を受賞した青春ドラマの傑作です。特に音楽が素晴らしいので未見の方は機会があったら是非。


人気Blogランキング 映画ランキング エンタメ@BlogRanking
ブログランキングネット HPランキング bloog.jpランキング ブログコミュニティくつろぐ
記事が気に入って頂けましたらClickお願いします!好みのブログ検索にもどうぞ



■当ブログの行定勲監督作品の感想LINK(Clickで記事に飛びます)
   贅沢な骨 ★★★
   閉じる日 ★★★
   ひまわり ★★★☆
   GO ★★★★
   Jam Films ★★★
   ロックンロールミシン ★★★☆
   きょうのできごと ★★★
   世界の中心で愛をさけぶ ★★

■行定勲監督作品DVD
GOひまわり贅沢な骨
GOひまわり贅沢な骨


■原作「ロックンロールミシン
ロックンロールミシン

あの頃ペニー・レインと あの頃ペニー・レインと
copyright (C) The Door into Summer all rights reserved.
designed by polepole..