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-何の参考にもならない映画評-
The Door into Summer
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 ★評価別Index : ★★★★★ ★★★★ ★★★☆ ★★★ ★★☆ ★~★★ 


「トニー滝谷」
2005年 12月 08日 (木) 00:09 | 編集
トニー滝谷 プレミアム・エディション トニー滝谷 プレミアム・エディション

「トニー滝谷」 ★★★

TONY TAKITANI (2004年日本)
監督:市川準
原作:村上春樹「トニー滝谷」(「レキシントンの幽霊」収録)
音楽:坂本龍一
キャスト:イッセー尾形、宮沢りえ、篠原孝文、四方堂亘、谷田川さほ、小山田サユリ、山本浩司、塩谷恵子、猫田直、木野花
   ⇒ 公式サイト
   ⇒ トニー滝谷@映画生活

この映像は小説の挿絵ではないのか。
小説に映像が乗った瞬間それが映画になるのか否か。映画の存在意義というもの自体への是非論が出てきそうな作品だ。

まず作品を観て真っ先に感じる際立った特徴は、左から右へゆっくりと横に移動するカメラワークとナレーションの多用であろう。
シーンからシーンを繋ぎ或いは遮断する無機物の感触に、虚構であるはずの映画はリアルな臨場感を付随させて観る者に近接する。確かに印象的なカメラワークだ。
そして淡々とした西島秀俊のナレーションに繋げられる極僅かなキャスト其々のモノローグ、この点は演劇風でもある。

極端なまでに台詞を排してトニー滝谷という孤独な人物像を語り尽くすことに努め、彼が辿った運命、一人の男の人生を定点観測するかのようにフィルムに写し撮った静謐な作品であると思う。服に固執しそれを買い漁る衝動を止められない妻、父親らしくない父親、死んだ人間達の残した物達が亡霊のように滝谷の心に取り憑いて彼を苛むのだ。

村上春樹の小説の自己内部に鬱々と逡巡し堂々巡りするような作風が自分はあまり好みではない。しかしラストこそ異なっているがこの作品は原作の言葉そのものの再現に執心し、その世界観を丹念に映像化しようとする意図が汲み取れる。いやむしろ小説を補完するものとしての映像なのか、特に映画の序盤はこの斬新さに酔わされる、酷く魅力的だ。

だが、どうしても拭えなかった違和感が、この映画が映画として成立し得るのかどうかという凡そ作品の立ち位置に関る部分に疑問として生じてしまったことも事実。
繰り返して言うが、映画は小説の挿絵ではないはずだ。
本作では映像は人物の心情の内面をほんの一部しか切り取ってはくれないし台詞ではストーリーが展開しない。ナレーションを排し叙情的に流され続ける音楽を取り払ってしまったら一体どの程度作品のテーマが伝わるというのだろうか?この映画は言葉で総てを語り過ぎる。役者の演技ですら小説を補完する挿絵の一部に過ぎないものになってはいないか。

原作の映像化に於いて、原作への準拠なのかあるいは映画の独自性を強めるのかという二極で考えた場合本作は全く前者の位置に属する。だが過度なナレーション依存は映画としての価値を自ずから卑下してしまうようにも思うのだ。役者の台詞は?表情は?物語を説明し展開する映像は?「まず小説ありき」という観念の枠組みを少々強調し過ぎている気がしてならない。

勿論作品の繊細なテーマ性は素晴らしいし映画としての実験的アプローチ自体を否定するつもりは毛頭ない。色のない無機質な映像美といい味わいのあるナレーションといい良質なセンスを感じさせる魅力的な映画であることは間違いないのだ。村上春樹の小説が好きならその言葉の巧妙な設えに圧倒されてしまうかもしれない。
若き滝谷を演じるにはイッセー尾形は厳しいかなと思うが、キャラクターの一貫性を追求した結果なのだろう。宮沢りえはいい方向に進んでいる女優だと思う。

【近況】4年のHELPやらゼミやらカラオケやらライブハウスやらで新作全然観てない日々です。この作品は先週春樹好きな友達んちで観ましたが彼が言うには村上春樹をここまで映像化できることが奇跡的だそうです。ふーん。個人的には隆の「コインロッカーベイビーズ」の映画化が心配でならないけどな・・・。


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