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-何の参考にもならない映画評-
The Door into Summer
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 ★評価別Index : ★★★★★ ★★★★ ★★★☆ ★★★ ★★☆ ★~★★ 


「復讐者に憐れみを」 
2005年 08月 29日 (月) 19:12 | 編集
復讐者に憐れみを デラックス版

「復讐者に憐れみを」 ★★★☆

SYMPATHY FOR MR. VENGEANCE (2002年韓国)
監督:パク・チャヌク
キャスト:ソン・ガンホ、シン・ハギュン、ペ・ドゥナ、イム・ジウン、 イ・デヨン、チ・デハン

感想にはネタバレが含まれます。
パク・チャヌクの「復讐三部作」の第一章は壮絶な復讐の連鎖である。「オールドボーイ」のあの勢いやエンターティメント性はこの作品では未だ封印され、剥き出しの暴力が凄惨に描かれる。最早復讐は何も生まないという言葉などここでは薄っぺらにしか聞えないし「痛ましい」という言葉しか見つけられない。ここに描かれた心優しき復讐者達に、観る者は人間がここまで残酷になれるのかという問いかけを繰り返すしかないだろう。「オールドボーイ」のような面白さを期待して観ると裏切られるぞw。

前半は不条理な「死」と徒労に帰した総ての思いに打ちひしがれるリュとドンジンを描き、後半はサスペンスタッチで見せるという展開もなかなか面白い。臓器密売団の組織を捜すリュと娘の誘拐犯を探すドンジン、それまでに張られたいくつもの伏線が巧く作用し観る者を惹きつけるのだ。
だが、この映画はやはり過激な描写と聾唖の主人公故の視覚的な効果を狙った映像抜きには語れない。
聴覚障害者のリュが気づかない風景は彼の背後に映し出され、一つのアングルとして凄惨なリアリティを持って我々の前に迫って来る。姉を埋葬するリュ、脳性麻痺の男、今まさに溺れる子供、これ等が1つの情景として描かれた場面や、苦しみ悶える姉とその声に自慰行為にふける男達という壁一枚を隔てた情景など、残酷だが非常に上手さを感じさせられるものだ。音のない世界に生きるリュには決して届かないものがあるということをこれ程感じさせられるシーンもない。
そして極めつけは復讐の残酷描写。切り裂かれぱっくり口を開ける傷口、噴き出る血飛沫、解剖に拷問等容赦のない生身の痛みを感じずにはいられないシーンの連続は実に壮絶。下手なスプラッタよりよっぽど神経に障るグロさはさすがというべきかw。

だが何故か観た後に酷く白けた気分になるのはどういうことか?悲劇であるはずなのに悲劇として成立し得ないような中途半端な感覚に襲われる理由は何なのだろう?
一つには「復讐」に到るリアルな感情がその行為に覆い隠されてしまっていること、もう一つは結局社会的貧富の格差という構造的な問題が総てだったのではないかという帰結に到ってしまう設定にあるかもしれない。人を殺したいほど憎み哀しみに暮れる、そんな情動が見えない直情的な「復讐」はただの殺人、因果応報であればそれ相当の人間の苦悶を見せるべきだろうと思うが。
で、一番足りないものはエンディングでこの復讐の連鎖の輪が閉じられてしまったという印象を観客に与えることだ。確かにエンドロールまで手抜きなく残酷、脚本はよく出来ているし役者も上手い、だが映画としての魅力をあまり感じられないのは、「セブン」や「オールドボーイ」のような新たなる苦悩と復讐に通ずる魂を揺さぶられるようなエモーションがラストシーンに感じられないからなのではないか?

他に難を言えば子供の誘拐の顛末はあまりにやり方が稚拙、折角映画がきっちり作り込まれている割にはダメダメだ。今時こんな計画で普通上手くいくわけがないし、子供が死ななかったら完璧捕まるようなシナリオは都合良過ぎる。また復讐の仕方についてはこれまた無駄に残虐というか、死に方を見せるのに少し凝り過ぎではないかと感じたことも確かだ。あまりにも復讐の様式的な収まりを狙い過ぎて逆に違和感を感じてしまった、ザ・やり過ぎ(爆。

細部韓国映画の大味な部分もあるし、個人的には心情の表現に物足りなさを感じるものの脚本の完成度は高いと思う。愚かしく矮小な人間、復讐が復讐を生むやり場のない哀しみ、そんな不条理な世界に立ち往生してどっぷり浸りたい人にはお勧めな作品だろう。
鑑賞後復讐の連鎖に反吐が出たという人には「息子のまなざし」辺りでも是非どうぞw

 復讐者に憐れみを@映画生活

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