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-何の参考にもならない映画評-
The Door into Summer
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 ★評価別Index : ★★★★★ ★★★★ ★★★☆ ★★★ ★★☆ ★~★★ 


「モンスター」
2005年 08月 29日 (月) 18:57 | 編集
モンスター プレミアム・エディション モンスター プレミアム・エディション

「モンスター」 ★★★☆

MONSTER (2003年アメリカ・ドイツ)
監督:パティ・ジェンキンス
キャスト:シャーリーズ・セロン、クリスティナ・リッチ、ブルース・ダーン、スコット・ウィルソン、プルイット・テイラー・ヴィンス、リー・ターゲセン、アニー・コーレイ、マルコ・セント・ジョン、ババ・ベイカー
公式サイト

感想にはネタバレが含まれます。
ここに描かれたアメリカ犯罪史上初の女性連続殺人犯アイリーンの人物像をどう捉えるべきか。描き方によって人に与える人物像の印象という物は変わる、それを踏まえてこの作品は観るべきだろう。

選択肢のない環境に生きる事を余儀なくされ、愛情に飢え蔑みと孤独の世界に生きる女。彼女が何故連続殺人を犯すに到ったのか、アイリーンという女が持っていた痛みと悲しみを映し出すことに多くの時間を費やしたこの作品を観る限り、観客はアイリーンに同情すら覚えるのではないか。彼女の境遇は果たして彼女の責任なのか?環境が罪を招くのか?と。
ここで考えなければならないことの一つは、実在の人物を描く際に監督や脚本家がいかなる視点でその人物の人となりを描くのか、ということだろう。
本作は社会からスポイルされた弱者としてのアイリーンが犯した罪を半ば釈明し、憎むべき対象としての描写は極めて薄い。
この脚本から読み取れることは、アイリーンが欲しかった物は自分を愛してくれる他者であり、彼女にとっては殺人ですらその愛の代償だったのではないかということだ。逆にセルビーという女性に出会わなければ彼女の罪がここまで重ねられる事はなかったのではないかとさえ感じさせる。勿論セルビーという女性にしても同性愛者という疎外感を持っているキャラクターではあるが、彼女はある意味「選択肢」を持っている人間であって、終盤ではむしろアイリーンとは対照的な位置づけであると気づかされるのだ。
人は誰でもモンスターに成り得るのかもしれない。劣悪な生い立ちや環境というものがアイリーンを追い詰め、彼女を唯一引き留められたはずのセルビーによってモンスターに変貌させられてしまったとすれば、あまりに哀しい話である。

だが、客観的に考えればやはり脚本による作為を感じざるを得なかった。上記のような演出によるドラマ性の構築はある程度上手く行っていると思うが、連続殺人犯の美化や肯定に走り過ぎているような印象はやはり拭えない。
よって実在の人物を描く映画の脚本としては疑問、フィクションとしては佳作、と言ったところか。

最後に、この作品はセロンを観る映画だ。シャーリーズ・セロンのなりきりっぷりはこの映画を語る時には絶対に外せない。容姿だけでなく物腰、口調、歩き方まで場末の売春婦と化し、セロンとは思えない熱演であることは確かだ。もう散々言われ尽くしている話だが、この役作りはやはり尋常ではない、それだけこの作品への意気込みをも感じさせられるしこの年の映画賞総ナメの理由も納得させられる。
2003年アカデミー賞主演女優賞及びゴールデン・グローブ賞女優賞受賞、2004年ベルリン国際映画祭銀熊賞女優賞受賞作品。

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