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-何の参考にもならない映画評-
The Door into Summer
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「ミリオンダラー・ベイビー」 名も無き者たちの生きた証
2005年 08月 29日 (月) 10:46 | 編集
ミリオンダラー・ベイビー ミリオンダラー・ベイビー

「ミリオンダラー・ベイビー」  ★★★★☆

Million Dollar Baby (2004年アメリカ)
監督:クリント・イーストウッド
キャスト:ヒラリー・スワンク、クリント・イーストウッド、モーガン・フリーマン、アンソニー・マッキー、ジェイ・バルチェル、マイク・コルター、ブライアン・F・オバーン、マーゴ・マーティンデイル、ネッド・アイゼンバーグ、ブルース・マクヴィッティ、マイケル・ペーニャ、ベニート・マルティネス、モーガン・イーストウッド、ルシア・レイカー
公式サイト

【オチに触れますので要注意】
人生の勝者とは一体何だろう。
床掃除と皿洗いで終わる人生もある。
何年経っても目の出ないボクサーもいる。
109試合目で片目とボクサー人生を失った男もいる。
そして30年以上不遇でようやく掴みかけた栄光の寸前で絶望の淵に叩き落された女、娘と離れ今また愛する者をこの手で葬らなければならなかった男。

誰もが成功を手にすることができるわけではないのだ。
この作品はアメリカンドリームの底辺で這いつくばって息絶える人間達の墓標だ。しかしその墓標は絶望や挫折だけに彩られているわけではなく、信念と誇りに満ちたものだったのだろうと思う。言い換えれば、人生に裏切られ続けてきたマギーと成功から見放されてきたフランキーの心がボクシングへの夢によって一つになり並走する、信頼と愛情に支えられた「信念の旅路」のドラマなのだ。

そして潰えたアメリカン・ドリームの墓標として用意された映画の終焉は「尊厳死」という最も悲痛で困難な決断に向う。尊厳死を望む側からの視点で描かれた「海を飛ぶ夢」と対極的に、「ミリオンダラー・ベイビー」は死を望む人間の最も身近な者の視点で辿られる。
「生かすことは殺すことだ」
「死んだ方が幸せ」だと幾ら心で思っても愛する人には「生き続けて欲しい」と願うのが常だろう。本作では「海を飛ぶ夢」では表に見えなかった尊厳死を助ける側の苦悩と愛するが故の選択が圧倒的な説得力を持って語られるのだ。
しかしクローズアップされがちだがこの部分が本作の最大のテーマというわけではない。これは人生というものの一つのけじめのつけ方であり、映画の中では先程述べた信念と誇りの生き様の延長上の選択として語られたように思う。

敬虔なアイリッシュ系アメリカ人(=自殺を禁じられたカトリック)としてのフランキー、家族というものに縁がなかったフランキーとマギーの孤独な魂と絆、まるで人生訓のようでもあるボクシングの教訓、スクラップという「赦し」の存在。これ等の伏線がラストシーンに見事につながって、重層的でずっしりと心に響くドラマが構築されていると思う。
そしてこの作品はコントラストの作品でもあるという側面にも注目されたい。ストーリー面においては前半のボクシングシーン(若干安易過ぎな展開だがw)の躍動感溢れる演出から、後半の沈痛で苦渋に満ちた静かなそれへの明暗。映像も光と陰の鮮やかな対照が印象的に使われている。さらにテーマ的に見た場合はこの明暗の対照は善と悪の象徴にも繋がっていく。マギーの家族の描写にしろフランキーの決断への苦悩にしろ、「闇」があるからこそ「光」がより明るく我々に語りかけるということをこの作品ほど強く感じさせられるものはない。
静と動、明と暗、それを静かに中和するスクラップの語り。
これ等のコントラストが映画の抑揚となり133分観る者を惹きつけて止まない。2004年アカデミー賞作品賞、主演女優、助演男優、監督賞4部門受賞作品。
「人はどう生きることが幸福なのか」深く考えさせられる傑作だ。必見です。

個人的にはスクラップという存在の描写がこの作品の最も優れた部分だと感じている。フランキーが一人で抱えるには重過ぎた悔恨への「赦し」の存在として、物語の語り部である彼の重要性は揺るぎないものだ。
まさか注射器の数に泣かされるとはなぁw
イーストウッド、凄い映画を撮ったと思う、絶句。【2005年5月鑑賞】

→ イーストウッドのオスカー作品考察

 ミリオンダラー・ベイビー@映画生活
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■原作 ミリオンダラー・ベイビー


ミリオンダラー・ベイビー 3-Disc アワード・エディション
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■サウンドトラック
Million Dollar Baby [Original Motion Picture Soundtrack]
Million Dollar Baby [Original Motion Picture Soundtrack]
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