-何の参考にもならない映画評-
The Door into Summer
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「海を飛ぶ夢」
2005年 08月 29日 (月) 01:01 | 編集
海を飛ぶ夢 海を飛ぶ夢

「海を飛ぶ夢」 ★★★★

The Sea Inside(2004年スペイン)
監督:アレッハンドロ・アメナーバル
脚本:アレハンドロ・アメナーバル、マテオ・ヒル
キャスト:ハビエル・バルデム、ベレン・ルエダ、ロラ・ドゥエニャス、マベル・リヴェラ 、 セルソ・ブガーリョ、クララ・セグラ、ホアン・ダルマウ
   ⇒ 公式サイト
   ⇒ IMDbでTrailerを見る
   ⇒ 海を飛ぶ夢@映画生活

感想にはネタバレが含まれます。
生きることが義務ではなくて権利であるならば、死ぬことにも権利があるのだろうか。

四肢障害を背負って28年間生きた男の尊厳死を巡る戦いを描いた実話ベースの作品。
尊厳死の前に横たわる様々な障壁というものに視線を逸らさない描写が非常に印象に残る。カトリックの宗教観との対決、尊厳死を望む者の家族の心情等に真正面から向き合い、こういう映画にありがちな感傷や美化に流れる展開というものはそこにはなかった。また作品は安っぽいヒューマニズムで覆われることもない。どんなに周囲に愛されようと詩的なセンスと能力があろうと「自分らしく生きられない」とラモンが思った以上、そこに既に尊厳が存在し得ないという選択を前にして、安直にも生存の継続を願ってしまう一般的な論理を観客は覆されることになる。
尊厳死という選択の重さとそれが投げかける倫理的な問題に極めてストレートに対峙する作品とも言えよう。この点では似通ったテーマではあるが「みなさん、さようなら」の「死の受容」というテーマとも比較してみると興味深いのではないかと感じる。

また、登場人物達の言葉はどれ一つとして間違ってはいない、と思える脚本も素晴しい。ラモンも家族もラモンを取り巻く人々も、そしてあの全く偽善的である神父でさえも其々の信条に基づいて生と死に向き合っているという現実を、映画は実に客観的に淡々と描き出す。ラモンとフリアの究極的かつ対照的な選択の描写によって、人間の「生き方」と「死に方」はどうあるべきかを問いかけるエンディングも押しつけがましさのない明確な論理性を持ち得ている。

ただこの作品はいくつかの問題も孕んでいるように感じたことは事実だ。まず視点が「死」を望む側であるが故に「尊厳死」という全体像は歪められる危険性。それを承知で敢えて「ラモンの我侭」という主観的な路線で描き切って「尊厳」の意味を問うた事は本作においては確かに成功しているかもしれない。だが主観という視点は常に偏頗なものであるということを我々は忘れてはならないと思う。
そして最もアメナーバルの上手さを感じさせられるのは、尊厳死を最終的には選択できなかったフリアという人物と、ラモンの生き方の対比である。おそらくエンディングで観る者は、自分らしさを失くしてまで愛する者の為に生きるべきなのか否か、という究極の選択を目の当りにして尚一層ラモンに対する賛同、共感を覚えるのではないか。
更にラモンの自死を実際に幇助する、即ち尊厳死を助ける側であったロサという人物描写の在り方も違和感を覚える所だ。好意的だが非常に安直で愚かな存在として描かれている点はこれも非常に確信犯的な演出であるように思う。彼女にしか結局ラモンの「尊厳死」は助けられなかったのか?という疑問を払拭できない事によって、観客は「尊厳死」の困難さを理解することにも繋がるからだ。だがそれを認識した上でもやはりこの人物描写には附に落ちない居心地の悪さがつきまとう。

これらの点は映画の中ではごく自然の流れとして非常にスムーズにクリアされ表層的には何の問題もないように窺える。このように作り手の作為的な意図を感じさせずに自然な展開で観客を誘導する演出については、あざとさを責めるよりはむしろ上手さを褒めるべきだろう。だが、尊厳死を取り巻く問題を考えた時には、自分で死ねない人間を助けるという行為に臨まなくてはならない人間の立場を描写しないのでは本来は片手落ち的なアプローチではあろう、ま、あくまで個人的な意見だが。

出色なのはこれだけ重いテーマでありながらも、映画は少しも暗澹とした女々しいものにはなっていないということだ。野を駆けて海まで飛翔するラモンの心象風景の美しさは圧巻だ。ラモン自身のもう一つの人生を飲み込んだ海でありながら、それはあまりにも限りなく美しい。
死の淵から生還してしまったラモンがいつも戻るあの日の海の映像と共に、彼の苦しみの深さを暗示しつつもどこか突き抜けた強さと明るさにこの作品は彩られている。それはどこまでもラモンの人間性と彼自身の立場を率直に描いた監督の視点にもよる所が大きいのかもしれないが。

どんな状態でも愛する人には生きていて欲しいだろうか?
生き続けることにこそ人生の意義があるのだろうか?
自分の願いが生涯叶えられない人生ならばそれを絶つ権利は自らにあるのだろうか?

おそらく観る者は皆其々の立場から自らに問いかけずにはいられなくなるだろう。
原題は、"THE SEA INSIDE" 人間の尊厳を静かに問いかけ、いつの時代も我々人間の命題である「どう生きて、どう死ぬべきなか」というテーゼを提起する。非常にヘヴィで深い、しかし素晴しい作品だ。
2004年アカデミー外国語賞及び、ゴールデン・グローブ外国語賞受賞作。アメナーバル監督は「テシス」といい「アザーズ」といい外れがないなぁ。

 
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