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-何の参考にもならない映画評-
The Door into Summer
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 ★評価別Index : ★★★★★ ★★★★ ★★★☆ ★★★ ★★☆ ★~★★ 


「エレファント」
2005年 08月 25日 (木) 21:17 | 編集
 エレファント デラックス版

「エレファント」 ★★★★☆

ELEPHANT(2003年アメリカ)
監督:ガス・ヴァン・サント
キャスト:ジョン・ロビンソン、アレックス・フロスト、エリック・デューレン、イーライ・マッコネル、ティモシー・ボトムズ
   ⇒ 公式サイト
   ⇒ エレファント@映画生活

 「ボウリング・フォー・コロンバイン」とは正反対の視点から描かれた静かで美しい作品である、そしてそれだけに痛ましく残酷だ。

 コロンバイン高校銃乱射事件の朝はこんな風に平凡でいつもの朝だったのだろうか。銃社会、学校の荒廃、家庭の問題、個人の資質、否、原因の究明も結論もここでは決して語られることはない。この作品はコロンバイン高校事件をモチーフとしたフィクションだが、「ボウリング・・」のような饒舌さだけが人の心に問題を提起するものではないということを強く感じさせる作品でもある。言葉で語らない事によってより鮮明になる事もあるということだろう。

 そして最も印象的なシーンであるエンディングは、事件の突発性や衝撃というものを象徴する不意打ちを食らわせる様なスタイルであり、逆にそれが観る者に様々な思いを抱かせることになっているのではないだろうか。
 鑑賞者が言葉を失ってしまうひたすらに静かにラストシーンを迎える展開。登場人物への共感或いは加害者への嫌悪感、おそらくそういう感傷によってではなく、突きつけられた事件の事実の重さに観る者はただ息を飲む、それはこの事件の衝撃そのものであり且つ本作の持つ力なのだ。走り出した狂気によって呆気なく引き裂かれる日常の脆さと暴走する孤独な魂に、我々は絶句させられるのである。

 全篇を通して特徴的なのは若者たちの背後からのカットの多さである。管状の空間としての「廊下」を歩く若者達を背中から撮るという試みは、学校という特異な閉鎖空間のメタファーとして非常に効果的だったと思う。彼等がその瞬間を迎えるまでの時間の多くがこの長回しであり、それが惨劇までの彼等の視線と彼等が生きた世界というものを観客に自然と意識させる効果があるのではないだろうか。同時に登場人物それぞれの視点から交錯する「パルプ・フィクション」的なシーン構成も実に見事だ。

監督のインタビューによれば「背後からの長いカット」の多用は観客に多くの考える時間を与えようと意図されたものだそうである。
長い静寂に息苦しい緊迫感を感じつつ、我々は片時もスクリーンから目を離すことができない。決して結論を提示しないこの作品は、観る者一人一人にただひたすら問いかけるのだ、
「何故?」と。

 変化に富んだトーンの黄色と青が使われた映像の鮮やかさと、美し過ぎる「エリーゼのために」の音色は、この事件の異様さと対照的に実に清冽な印象を残す。後半にゆっくりと翳ってゆく青空と、中断されたピアノの音色は微かながら事件の予兆を想起させるものだ。
 構成、脚本、映像、どれをとっても非常にユニークである、作風の好き嫌いは別にして色々な意味で新しい出色な作品だと思う。
 2003年カンヌ国際映画祭パルムドール及び監督賞受賞作品、紛れもなく傑作だ。

■参考サイト
  ・トレンチコートマフィア事件
  ・コロンバイン高校銃乱射事件

【追記】
本作は「GERRY ジェリー」「ラスト・デイズ」と合わせた三部作の一つ。
三部作としての検証考察は「ラスト・デイズ」の記事に掲載してあります。
【2004.12.16】



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